STkokushiのブログ

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言語聴覚士 国家試験合格への道 サウンドスペクトログラム①

下の図のようなサウンドスペクトログラムの問題は毎年国家試験に出ています(初出は第17回だと思います)。

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この問題を解かなければ国家試験に合格できないというわけではありませんが、毎年のように出題されていることを考えると、解けたほうが気持ちは楽だと思います。
しかしこの問題は、音響学はもちろんですが、他の関連科目も理解していないと解けないような発展問題でもあります。
どうしてもこの手の問題にアレルギーがあったり、他に優先して取り組むべき問題がある人は、最初から解かないと諦めるのも手だと思います。
なるべく理解しやすいように説明していきますが、なにぶん私自身音響学の専門家ではないので、細かい説明の不正確さはご了承ください。
また、各1音1音を同定するのではなく、選択肢の中から消去法で答えを選んでいく方法をとっていきます。
少ない国家試験勉強時間の中で、効率よく正答に至る方法の解説になりますことをご了承ください。
*この解説を書くにあたり、吉田友敬先生の「言語聴覚士の音響学入門」を参考にしております。

 

言語聴覚士の音響学入門

言語聴覚士の音響学入門

 

 

 

[サウンドスペクトログラムの問題を解くための必要知識]
1.音声学・言語学の知識を身につける(今回)
2.主要な子音のサウンドスペクトログラム上の特徴をおさえる(次回になります)
3.各母音のサウンドスペクトログラム上の特徴をおさえる(次々回になります)

ここでは上の図である第19回問題140を使いながら、基本的な考えを解説していきたいと思います

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1.音声学・言語学の知識を身につける
サウンドスペクトログラムの問題は音響学の問題ですが、音声学・言語学の問題でもあります。
具体的にどのような知識が必要かというと、
①問題文をIPAで書くことができる
これは2・3のサウンドスペクトログラム上の特徴につながる部分ですが、まずは問題文をIPAなどで表記し、どのような子音・母音を用いているかを分析する必要があります。
1.kaɕitsɯ
2.kasɯtera
3.bessatsɯ
4.maɕɕiro
5.kasekʲi
になります。
ざっと各選択肢の構音方法・有声無声などを確認しておくとよいかと思います。

②日本語はモーラ言語(等時性)であることを知る
基本的に日本語の音は1音1音の音の長さが一定という、等時性が保たれた言語になります(これをモーラ言語と呼びます)。
初めてサウンドスペクトログラムを見ると、どこで区切られているか分からなくなりますが、この等時性を意識すると1音1音を分けることができます。
サウンドスペクトログラムには下に必ず時間が表記されているのでそれを参考にします)
第19回問題140の選択肢を見ると、3モーラのものと4モーラのものが混在しています。
この問題は多分0秒から開始し約0.8秒で終了しています。
等時性を意識してまず約0.26秒間隔で3つに分けてみます。

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そうすると、音の真ん中と思われるところで分断されることが分かります。


続いて約0.2秒間隔で4つに分けてみると、ある程度きれいに分けることができました。

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従ってこの問題の場合、3モーラ語ではなく4モーラ語であることが分かりました。
(従って選択肢の1,5は消去されます)

③母音の無声化の条件を知る(これは音声学では知っておくべき知識ですが、音響学上では知らなくてもほとんど問題になりません。)
①のところでIPAに変換していきました。
特殊拍(長音、促音、撥音)を除いて日本語は基本的にC(子音)+V(母音)もしくはV(母音)のみで1モーラを構成します。
母音は基本的に有声音になるので、サウンドスペクトラムボイスバーというものが表れます。
*ボイスバーとは声帯振動を表すもので、サウンドスペクトラム上では0~200Hz前後で黒くなっている部分です。

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(あまりに不細工に塗ってしまいましたが、青色の部分がボイスバーになります)

こう見ていくと1,3,4音目は黒くなっていますが、2音目は全くボイスバーがみられていません。
すなわち2音目は完全に無声音であることが分かりました。
従って2音目は特殊拍か母音の無声化が起きているという事が言えます。
特殊拍のことは次回お話しするとして、母音の無声化とはどのようなものかを見ていきたいと思います。
「母音の「い」と「う」が無声子音に挟まれたときや、文の最後に来たとき」に「い」と「う」の声帯振動がなくなる現象です。

東京外国語大学言語モジュールの内容を一部改変 
http://www.coelang.tufs.ac.jp/mt/ja/pmod/practical/03-03-01.php
このように見ていくと残った選択肢のうち、2は2音目のɯが無声子音のsとtに挟まれており無声化する可能性があります。
他の選択肢を見てみると、残った3,4ともに特殊拍である促音になっており、現状では2,3,4から選択肢を消すことができない状態です。

ではこの問題の答えは何なのか?というのは次回にしていきたいと思います。

 

第1回目は音声学・言語学の視点から解説を試みました。
次回はサウンドスペクトラム上での子音の見分け方を見ていきたいと思います。