言語聴覚士国家試験出題基準と指定規則改正について
第25回の国家試験もあと少しで発表ですね。
私は来年度の準備をコツコツ進めております。
ブログの更新をしなくなって1年・・・
今年はもう少しブログを更新しなくては!!
さて、今回はつい先日出版された「言語聴覚士 国家試験出題基準 令和5年4月版」をもとに、出題基準と今後大きく変わっていく言語聴覚士教育について記事にしていきたいと思います。
[言語聴覚士国家試験出題基準と指定規則改正について]
1.言語聴覚士 国家試験出題基準とは
2.令和5年度版と平成30年度版の比較
3.指定規則改正について
1.言語聴覚士 国家試験出題基準とは
国家試験終了後に学生からよくこの言葉が聞かれます。
「謎の問題が出題されました!」
「あの謎の問題を作った人が許せません」などなど・・・
確かに教員から見ても、この問題にどのような意味があるの??という問題が国家試験には毎年数問出題されています。
それでは、国家試験委員は好き勝手問題を作成しているかというと、そういうわけではありません。
国家試験の出題内容を定めたものが「国家試験出題基準」になります。
「言語聴覚士国家試験出題基準の利用法」の部分で「言語聴覚士国家試験委員はこの基準に拠って出題する」と明記されています。
従って、国家試験勉強する際には「言語聴覚士国家試験出題基準」を一読しておくというのは無駄な事ではありません。
ただし・・・
「言語聴覚士国家試験出題基準の利用法」の部分では「出題内容に関する最終的な判断は、試験委員会が行うものとする」という事も書かれており、出題基準から少々外れていたとしても出題することが出来る余地が残されているという事になります。
(ここの部分で多くの学生は苦しめられているのかもしれませんね)
2.令和5年度版と平成30年度版の比較
令和5年3月に言語聴覚士の新たな出題基準が出版されました。
前回出版された平成30年度版と比較し、新たに付け加えられた項目などを見ていきたいと思います。
まず結論から申し上げますと大きな変化はなしという事です。
出題基準は大項目>中項目>小項目という形で構成されています。
大項目が変更されていれば大きな変更、小項目の変更は小さな変更と言えます。
今回は中項目の変更は少しありましたが大項目の変更は見られず、大きな改変はなかったと言えると思います。
そうは言っても変更点はたくさんあります。
ここからは私基準で気になる変更点を見ていきたいと思います。
これらを見ることで、今後の国家試験勉強を効率化!?することが出来るかもしれません。
①医学総論
医療倫理の項目が詳細化されています。
ここ数年ヘルシンキ宣言がよく出題されていたことと関連しているかもしれませんね。
②内科学
中項目:老年病学 小項目:老化の中に「サルコペニア・フレイルなど」が追加されました。
今後嚥下障害などを含めてこれらの項目が出題される可能性が高まったのではないでしょうか。
③リハビリテーション医学
中項目:各種疾患・障害のリハビリテーション 小項目:腎疾患(透析)・代謝疾患が追加されました。
透析のリハビリテーションが出題される可能性を感じます。
④臨床心理学
中項目:心理療法 小項目:応用行動分析(ABA)が追加されました。
しかし、平成30年度版でも言語発達障害の部分で記載されているので、勉強内容の追加とは言えないかもしれません。
⑤言語学
第22回から突如出題されるようになった社会言語学の項目がかなり充実しています。
(平成30年度版にも別の項目で地理的・社会的方言や敬語などの記載はあります)
今後もこの分野の出題頻度は高いかもしれませんね。
この2つの科目に共通して追加されたこととして、
社会保障制度:地域共生社会 言語聴覚障害総論:地域包括ケアシステム
と言った、地域に関連する項目が追加されました。
今後の医療・介護を考える上で重要な地域に関する問題は今後の出題頻度が高そうです。
⑦失語症
中項目:発語面の症状 小項目:その他(非失語性呼称障害、談話障害など)
他にも原発性進行性失語のタイプ(意味型など)や標準失語症検査補助テスト(SLTA-ST)などが追加されました。
中項目:注意障害 の中に小項目:注意の分類 注意障害の分類が追加されました。
今までは中項目:注意障害だけだったのが、より細かく小項目で内容が記載されています。
⑨言語発達障害学
評価の中の検査に関する記述がきれいに分類され、様々な検査が詳細に書かれています。
特に中項目:コミュニケーション検査 小項目:M-CHAT、CARS2など、自閉症スペクトラム症の検査項目が具体的に明記されています。
しかし、いままでも何回か出題されているので、勉強内容の変更を迫られるようなものではないと思われます。
⑩吃音
中項目:基礎知識 小項目:他の障害と併存する吃音・流暢性障害が追加されました。
吃音・流暢性障害を単体で勉強するだけでなく、他の障害との併存も意識する必要があるのかもしれません。
⑪聴覚障害学
ここが一番大きく内容が追加されています。
特に補聴器・人工内耳の部分では、新たな機器や技術に関する用語が追加されています。
気になる部分を確認していきます。
a.小児聴覚障害
中項目:指導・支援と計画 小項目:セルフアドボカシー指導、コミュニケーションモードと指導法の中にAuditory Verbal Therapy(AVL)や文字・音声法や自然法が追加されています。
b.成人聴覚障害
中項目:平衡機能の検査と評価 小項目:平衡機能検査の中に眼振検査や重心動揺計検査などが追加されています。
ここ最近平衡機能検査の問題が多いことに関連しているのかもしれません。
c.補聴器・人工内耳
ここがたくさんありすぎますので、気になる追加された用語をザクッとみていきます。
(中項目は無視して記載します)
追加されたもの:軟骨伝導補聴器、RIC補聴器、植込型骨導補聴器、デジタル無線システム、補聴器の機能の中の帯域分割やプログラム自動選択など
一部今までの国家試験に出題されたものも入っていますが、これからも新しい機器や技術を確認する必要がありそうです。
他にも細かい変更点を書いていくと数えきれないほど変更がありました。
今回は私が気になる変更点を列挙しましたが、別の先生が見ると違った重要性に気付かれるかもしれません。
気になる方は購入されることを勧めます。
ただし、これらをざっと眺めてみると、今までの国家試験勉強を極端に変えなければいけないほどの変更点はないように感じます。
言語聴覚士の分野も日進月歩の進化を遂げており、常に新しい知識を吸収する必要があります。
それに伴って国家試験も常に変わっており、新しいトピックに敏感になる必要性があるかもしれません。
(学生の皆様には難しいことかもしれませんが・・・)
3.指定規則改正について
令和5年度の出題基準変更について見ていきましたが、大きな変更はなさそうと書いてきました。
しかし、実は今後言語聴覚士教育は大きく変わる可能性があります。
それが指定規則改正になります。
これはどのようなものかというと、言語聴覚士養成校で行われるカリキュラムなどが変更されるというものになります。
今の段階で追加されそうな科目としては、地域言語聴覚療法学や言語聴覚療法管理学などが予定されています。
それに伴って国家試験の出題基準も大きく変わる可能性があります。
このように書いていくと、
「今すぐ新しい科目の勉強をしなくちゃ!!」
となってしまいそうですが、そうではありません。
この指定規則の改正は現在進行中で、まだ改正されていません。
近々改正されると噂されていますが、改正されたとしても、その改正されたカリキュラムが導入されるのは数年後になります。
加えて、改正されたカリキュラムを受講した学生が卒業するのはさらに数年(最大4年)かかりますので、国家試験自体が大きく変わるのはまだまだ先の事(5年以上先)になります。
国家試験の内容が大きく変わる前には、いつから変更されるのかというアナウンスがされるものと思われますので、現状気にする必要はないと思います。
指定規則改正の内容について気になる方は下記をご覧ください。
https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000932217.pdf
この指定規則改正によって養成校の先生方は大忙しの状況になっています。
特に専任教員数や要件の見直し、実習指導者の要件の見直し(今後研修が必要になる)など大きな変革を迫られています。
今後より良い言語聴覚士教育を実現するための過渡期とも言えそうです。
ひとまず学生の皆様はにおかれましては、国家試験に合格して言語聴覚士になっていただく事を祈っています。